税務調査が来る前から「説明に耐える処理」を整える

執筆者:代表社員税理士・弁護士 平川優希

実際、弁護士業務と税理士業務は、業務内容が大きく異なりますので、両方の業務を日常的に取り扱う人は少ないのが現状です。

しかし、私自身、中小企業の税務顧問業務を行い、実際に税務調査にも対応する中で、税理士としての日々の実務に、法曹として身につけた技術が非常に活きていることを実感しています。

税務当局も、法的な観点から処分を組み立てています

経済取引の複雑化や大型の税務訴訟を背景に、税務当局では、法的な観点から処分を検討することが重視されるようになったといわれています。

税務当局が検討している更正処分等が、将来、訴訟で争われ、裁判所に取り消されてしまっては、処分の意味がなくなってしまいます。法的な観点が重視されるのは、当然といえば当然の流れです。

税務当局が税務調査を経て更正処分等を行う場合、通知書には処分の理由を示すことが求められます。

その理由は、法令を解釈して課税要件を明らかにし、証拠から事実を認定し、その事実を課税要件に当てはめて結論を導く、という順序で組み立てられます。

その流れを整理したものが、次の図です。

今の税務調査では、同じフレームワークで対応する

税務当局がこの構造で指摘を組み立てる以上、納税者側も、これに対応して議論を組み立てる必要があります。

税務調査では、調査官との対話が重要であることは、今も変わりません。

しかし、税務当局が法令、証拠、事実の当てはめを整理して指摘してくる以上、経験や感覚だけでは、対応することが難しい状況になっています。

今の時代は、どの課税要件が問題なのか、どの証拠からどの事実が認定できるのか、その事実をどのように評価して課税要件に当てはめるのかを、順序立てて示して主張することが求められているのです。

法曹は、法令や裁判例から要件を読み取り、証拠を検討して事実を認定し、その事実を要件に当てはめて結論を導く技術を日々磨き続けています。

この技術を整理したものが、次の図です。

裁判官として、判決を組み立てる側を経験したこと

裁判官は、判決を組み立てるに当たり、先行する裁判例を調査し、どの証拠からどの事実を認定するのか、その事実をどのように法令上の要件へ当てはめるのか、そして、どの事実を重視して結論を導くのかを検討します。

私も裁判官として、この一連の作業を経験しました。この経験は、税務の裁判例を検討するときにも活きています。

裁判例は、「納税者が勝った」「経費として認められなかった」という結論だけを読むものではありません。

裁判所がどの事実を重視したのか、目の前の取引はその事案と何が同じで、何が違うのか、その違いが結論を変えるほど重要なのかまで検討する必要があります。

いわゆる「裁判例の射程」を見極める作業です。

税務調査が来る前から、説明できる資料を整える

とはいえ、通常、弁護士が関与するのは、税務調査で争いが生じた後です。

その時点で残っている資料を集め、可能な範囲で主張を組み立てるしかありません。

一方、法曹のフレームワークを身につけた税理士が、税務顧問として平時から関与していれば、取引の時点でご相談いただくことができます。

課税要件や裁判例を調査して税務上の見通しを説明するだけでなく、事実認定から逆算して、後にどの事実が重要になるのか、どのような資料を残しておくべきかまで整理してお伝えできます。

後から都合のよい証拠を作るという意味ではありません。

取引の目的、判断の経緯、金額の根拠、対価関係、実際の業務内容を、その時点の資料として正確に残すということです。

税務上の評価が一つに定まらない場合には、一律に処理を押し付けるのではなく、選択肢ごとのメリット、デメリット、税務上のリスク、必要となる資料を整理して説明します。

その上で、最終的には経営者に判断していただくことを基本としています。

※本記事は一般的な情報提供を目的とするものです。個別案件の税務上の取扱いは、契約内容、取引実態、証拠、対象事業年度の法令・通達等によって異なります。

私自身、まだ研鑽の途上ではありますが、税務と法務の双方からより良いサービスを提供できるよう、一つ一つの実務に真摯に向き合い、今後も研鑽を重ねてまいります。